「trap」
「適当に、座ってて」
背広の上着を脱ぎながらキッチンに入っていく、その背を見送って、アスヤは困ったように周りを見回し、取りあえず一番近くにあったローソファに腰を下ろした。
所在無げに視線を彷徨わせる。
あまり生活感の無い、無機質な部屋だった。家具が少なく、どれもがシンプルで、その無駄のない整然さは、部屋の主のかっちりとした性格を想像させる。
今、すぐ・・・帰りたい・・・
深い溜息が、漏れる。
こんな所へ、来たくはなかった。
外回りから直帰しようと社に連絡を入れてすぐに、最も会いたくない人間に会ってしまった。
いつも外回りなんてしないくせに、どうして、今日に限って、目の前に立っているのか・・・
「お、アスヤくん、帰り ? 」
知らぬ振りをしたい、が、一応、先輩だ。強張っていただろうが、笑みを見せた。
「・・え、ええ。・・もう、直帰、します」
「そうか、丁度良かった」
人好きのする満面の笑顔が、アスヤに向けられる。
「一緒に、来て」
「はい ? 」
「行こう」
「え ? あ、ちょっ、ちょっと・・」
二の腕を掴まれて、強引に引っ張られる。
「話が、あるんだ」
「いったい、何ですか ? 」
両足に力を入れて、踏ん張った。子供の力比べみたいだったが、この先輩の言うなりになっては、色々と、・・・アブナイ、のだ。
「此処じゃ、ちょっと・・・」
声を潜めて、微かに眉根が寄せられる。この人が、こんなに沈痛な表情を浮かべるのを見るのは、初めてだった。
「大事な、話、なんだ。お願いだから、来てくれ。なっ。ナニもしないから」
「・・・・・・・・」
そして、強引にタクシーに押し込まれて、このマンションの一室に連れてこられたのだ。
「ほら」
目の前に、コーヒーの入ったカップが差し出された。
素直に受け取り、程好い熱さのソレを、こくん、と一口、啜る。
「で、凌介さん。・・・話って、何ですか ? 」
己の前に立ったままの、先輩を見上げた。
視線を向けられた凌介は、笑いを堪えるような、いたずらっ子の表情をしていた。
「アスヤくんって、つくづく育ちがいいんだねぇ・・・」
「 ?? 」
「人を、疑わないよね。また、クスリを盛られたらって、考えないの ? 」
くすくすと笑う凌介と対照的に、アスヤは、さっと青ざめた。ごとんっと音をたてて、カップが落ち、磨きあげられたフローリングの床に黒い染みを広げる。
「あーあ、汚しちゃって、仕様がないなぁ・・・」
「わ、私、やっぱり、失礼しますっ」
ぎくしゃくと立ち上がり、一礼して、不用意に凌介を刺激しないようにそろそろと、その側を過ぎようとした。
「っ !! 」
後ろから肘の辺りを掴まれる。
「逃がすわけ、ないだろ。折角、此処まで来てもらったんだから」
言うや否や、凌介は思い切りアスヤの肘を引き、勢いをつけてその身体を今まで座っていたローソファに叩き付けた。間髪いれずに胸に膝で乗り上げ、圧し掛かる。
「止めっ !! 」
悲鳴のような声が上がるのが、唇で、塞がれた。
顎を掴まれ、あっさりと唇の隙間から侵入した熱い舌が、アスヤの口内を嬲った。歯列を舐め、舌を絡め捕り、上顎の裏側をちろちろと刺激されて、息が上がっていく。
「ん、・・・・ん、んっ・・」
抗うような声は吸い取られ、より、口付けが深くなる。
ちゅっと、わざと音をたてて凌介が唇を解放した時には、アスヤはもう、涙を浮かべた潤んだ瞳をしていた。
「んー、イイ表情だ」
「・・・止めて、ください」
アスヤの声は蚊の鳴くような弱々しい、声、だ。
凌介が少し身を離しても、再び逃げ出そうとするより、大柄な身体を縮こまらせて、震えてさえいる。
目の前の男には逆らえないと、身体に恐れ≠ェ染み付いているのだ。
「・・・話が、あるからって・・・ナニも、しないって・・・・言った、から・・・」
「お馬鹿さんだなぁ」
両の手でアスヤの頬を挟んで、眼鏡の奥の漆黒の瞳を覗き込む。視線を逸らそうとするのを許さず、ゆっくりと言葉を継ぐ。
「俺の、言う事、まだ、信じるなんてね」
みるみる、表情が強張るのが、愉しい。
「あ、話は、あるよ。大事な話」
満面に、いつもの笑みを浮かべて、更に、追い詰めていく。
「アスヤくんの身体と、お・は・な・し、するんだよ」
区切って囁くように言うと、アスヤは諦めたように固く目を瞑り、眦に浮かんでいた涙がつぅっと頬を伝った。
「声、聞かせて」
耳朶に熱を孕んだ声が流し込まれると共に、凌介の指先が、アスヤの胸元を弄る。
「ぁ、ぅん・・・、あ、ぁぁぁ」
突起がしこるまで刺激され、唇を噛んでも殺しきれない、声が、漏れた。
上着と眼鏡は投げ捨てられ、ローソファに組み敷かれている。
ボタンを外されたワイシャツの隙間から覗く肌は、ほんのりと赤みを増し、片足だけにスラックスと下着が絡み付く、中途半端に乱した姿が、凌介を、そそる。
「ひゃっ、・・・ぁああっ ! 」
己の中心に、ねっとりと湿った熱を感じ、背筋を這い上がる過ぎるほどの快感に、アスヤはあられもなく声をあげて仰け反った。
ぴちゃぴちゃと、凌介が屹立をしゃぶる、音、が部屋に響く。
「・・あっ、あ、・・・ん、あぁぁ、ぁぁ」
思わず伸びた指が凌介の髪に届くと、ソレを引っ掻くように、掻き回した。
わななく唇から引っ切り無しに漏れる嬌声が、掠れていく。
その時、
玄関ホールで、ガチャリ、と、鍵の回る音が響いた。
ドアが開き、誰か、が、入ってくる足音が、する。
「あ、お帰り」
おしゃぶりを中断して顔を上げた凌介が、その場にそぐわない普通の声音で、言う。
満面に、笑み、まで浮かべていた。
刺激が途切れた事に気付き、アスヤの固く閉じられていた目蓋が上がる。惚けたような表情で、ぼんやりと、凌介の視線の先の人物を、見た。
視力は、良くないが、それでも、誰か、ぐらいは分かる。
「・・・ぁ、ぁ、ぁぁああ、あぁぁーっ !! 」
嬌声ではない、叫びが、迸る。
跳ね起きようとするアスヤの身体を、易々と凌介は押さえ込み、全てを予想していた者の手際のよさで両腕を放り出していたネクタイで縛めて拘束した。叫び声を上げ続ける口を、片手で押さえつける。
「・・・何の、つもりだ ? 」
「ん、見ての通り。部屋、借りてるよ」
「伯亜・・・貴様」
「優しいだろ、俺って」
「何だと」
「こんなに愉しい事、独り占めしないんだからさ」
「・・・・・・・」
「幸夫だって、ホントは、こいつが欲しかっただろ ? 」
「・・・・俺まで、巻き込む、な」
「正直に、なれよ」
「・・・・・・・」
「なあ、幸夫」
「・・・・・・・」
「・・・じゃあ、黙って、見てろ」
反論を許さない、冷ややかな低い声だった。
それなのに、その表情は、爽やかな笑みを浮かべている。
暫し、睨み合いになった。
先に、視線を逸らしたのは、幸夫で・・・・
ひとつ頭を振ると、廊下から部屋を横切って、キッチンに入る。カタリ、と、軽い音をたてて椅子を引き、背凭れを前にして、どかり、と腰を下ろした。
かなり距離はあったが、しっかりと、二人を見据えている。
「シたくなったら、お・い・で」
嘲るような凌介の軽口にも、表情を消してしまい、もう反応を示さない。
ただ、スタイリッシュな細身の眼鏡の奥の瞳だけが、昏い色を湛えているように見えた。
「さ、続き、しよっか」
アスヤの鼻先に口付け、まるで何事も無かったかのように、凌介が言う。
「いやっ、いやだっ、幸夫さんがっ、・・・・お願い、だから、止めっ、ひっ・・」
身を捩って暴れ、這いずって逃れようとするアスヤを、背後から押さえつける。愉しそうに嗤いながら、萎えてしまったアスヤ自身に指を絡めた。
「抵抗されると、燃えるなぁ・・・」
場慣れしている凌介にアスヤが敵うはずも無く、巧みな愛撫の手に、再び熱を高められていく。
「ぅう、んっ・・・い、やだ。・・・やっ、」
優しく、キツク扱かれた屹立が、たちまち限界を訴えて、ひくひくと震えた。
「いいよぉ、アスヤくん・・・・見せ付けてやろう、君が、乱れるトコロ」
「・・・くぅ、ぅんっ、・・・ん」
幸夫が、此方を、見ている。
熱が高まり、どうにかしたくて、腰が持ち上がる。尻を突き出す恰好になり、そんな浅ましい姿を、余すところ無く見られる羞恥に強張る心を置き去りにして、強制される快楽に、身体ばかりが先走る。
快楽を教え込まれた身体は、この先を、よく知っている。・・・欲してさえいる。
凌介の手が、無意識に揺れ始めたアスヤの腰を抱え込むようにして後孔に触れ、ソコを解すべく、じわりと指を沈み込ませた。
「・・止め、・・助けてっ、幸夫さんっ、助け、て・・・」
一瞬の不快感に、意識が鮮明になる。
逃げたかった。身体はどうあろうと、これ以上は、本当に嫌だった。恥も外聞も無く、視線の先に居る男に、助けを、求める。
しかし、
幸夫は、ぴくりとも、動かない。ただ、じっと、アスヤが凌介に抱かれる様を、見ている。
「無駄だって」
愛撫の手を止める事無く、アスヤから艶っぽい喘ぎを引き出しながら、凌介が、嘲笑う。
「いい加減に自覚しなよ。君は、男を、そそるんだ。・・・幸夫の痩せ我慢も、いつまで、続くかな」
アスヤの頬を、生理的なモノではない、涙が濡らした。
快感だけが迫り上がる。嫌で嫌で、たまらないのに、快楽で犯された身体に全てが引き摺られて、何も分からなくなっていく。
「・・あぁっ ! いや、だ、・・・・んっ、ぁぁっあぁーっ ! 」
指先で後孔が暴かれ、容赦を知らない熱の塊が、アスヤの身の内を蹂躙するべく、潜り込んだ。
「ああ、イイなぁ、・・・もっと、ハナシをさせてくれよ。君の、淫らな、身体、と」
「ぁあ、あぁっ・・・ぅんっ、んっ・・・」
背に獣のような凌介の荒い息遣いを感じる。腰骨が掴まれ、ぐりっと抉るような抽挿が激しくなると、アスヤの唇から漏れるのは吐息と嬌声ばかりになった。
もう後は、本能の赴くままに、ただ貪る。
ただ、貪られる。
度を超えた快楽に意識が焼き切れる瞬間、アスヤの視界が捉えていたのは、幸夫の細身の眼鏡に反射した鈍い光、だけだった。
「我慢強い男だな」
シャワーを浴びてきた凌介が、髪を拭いながら、笑う。
幸夫は、未だ、身動ぎもしないで、ローソファに横たわるアスヤを見ていた。
両腕を拘束されたまま意識を失った姿は、情事の残滓で白く汚れ、生々しく、淫らだ。
「抱きたく、ならない ? 」
ゆるゆると色素の薄い茶色の瞳が、凌介に向けられる。
「お前、・・・こんな事を続けて、どうする気なんだ ? 」
「どう、って ? 」
凌介は、にやりと、口の端を歪めて、獰猛に嗤う。
その表情に、何を言っても無駄なのだと知った幸夫は、口を噤んだ。
凌介の手が伸びて、その幸夫の顎を掬い、唇に掠めるようなキスを落として、囁く。
「知ってるだろ。・・・退屈は、嫌いなんだ」
カタン、と音をたてて、幸夫が立ち上がる。
凌介に一瞥を与えると、ゆっくり、ローソファへと、歩を、進めた。
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明神さんからアスヤ受けssを頂きました!
明神さんがこのサイトの12300Hitを踏み、「斗崎→明神さんにリク→明神さん小説を書く→小説に斗崎が絵を描く」
ってな感じになり、絵が完成したので了承を受けUPさせて頂きました。
アスヤエロイよアスヤ!可愛いよアスヤ!萌え萌えっす!
・・・・・・実は、昨年9月あたりには既に頂いていたのですが、ちょうど9月あたりから学祭へ向けての作業がガンガン入りだし、
就職活動もあり、なかなか描けなかった3P絵・・・・・・。明神さんマジですんません(泣) まさか年またぐとは思わんかった・・・。
でも小説、続き期待してます(笑)
問題の、えっらく時間がかかった絵はこちらから。
2005/03/06