俺には兄者が全てだった。
兄者がいれば他には何も要らなかった。
でも―――兄者は、そうじゃないのか・・・・・・?



*ヒトリノココロ*



気が付くと、辺りはまるで濃い霧にかかったように真っ白だった。
どうして自分がこの場所にいるのか一鍬には判らなかった。
「此処は・・・何処だ?」
辺りを見渡すが、一鍬以外に人の気配は無い。
「兄者、いないのか?兄者・・・」
姿が見えない兄が心配になり、ゆっくりと歩き出す。
暫く白い闇の中を彷徨っていると、目の前に人影を見つけた。
一鍬は瞬時にその影が兄であると察し、駆け寄る。
だが、数メートル進んだところで足が止まってしまった。
確かにその背中は兄のものだ。
だけど、もう一つ見覚えのある背中をその隣に見つけた。

それは・・・・・・鷹介だった。

「兄者・・・?」
声をかける。しかし、一甲は振り向かない。
自分に背を向け鷹介と何やら喋っている兄はすごく楽しそうだった。
あの兄が。
前までは一鍬と二人でいるときですらあまり笑わなかった兄が。
鷹介と 二人で 楽しそうに。
二人で。
「兄者、俺の声が聞こえないのか?兄者!」
強く兄を呼ぶ。しかしやはり一甲が振り向く気配は無かった。
二人は白い闇に向かって歩いていく。
一鍬がいる方向とは、逆の方へ。
「嫌だ・・・いかないでくれ、兄者!」
すぐに走って兄の腕を掴みたい。
だが、足が地面に張り付いたように動かない。
「俺を・・・・・・置いていかないでくれ・・・」
目の前の一甲と鷹介の背中が、霞む。
一鍬はその場に座り込んでしまった。
「兄者、何故俺を見てくれないんだ・・・」
深い瞳から涙が零れる。
「・・・俺はもう要らないのか?俺より鷹介のほうがいいのか?兄者・・・・・・」
手を伸ばす。しかしそこに兄の背中はもう無くて。
一鍬の手が白の中を彷徨う。
「―――もう、俺だけの兄者ではないのか・・・・・・?」
答えは、返ってこない。
心の奥のほうが寒いのがわかる。
嫌だ、俺を見て、俺だけを見て、兄者!!

・・・・・・兄者・・・・・・。



「・・・・・・鍬、一鍬!」
ゆっくりと目を開けると、そこには一甲の顔があった。
「・・・兄者・・・・・・?」
「どうしたんだ、酷くうなされていたぞ」
体を起こし辺りを見渡すと、そこは何時もの廃寺だった。
身体が冷えていて少し寒い。
「一鍬?」
一甲に名を呼ばれ、顔を上げる。
兄が此処に居る。
俺の、兄者が。
俺だけの、兄者が。
「・・・っ、一鍬!?」
思わず抱きついてしまった。
兄の首に自分の腕をまわす。
一甲は驚いたが、やがてゆっくりと一鍬の頭を撫でる。
「兄者、俺を見てくれ・・・俺だけを見てくれ!」
「俺は何時もお前だけを見ているよ、一鍬」
「俺を・・・・・・見捨てないでくれ」
一甲は一鍬の背中に腕を回し、強く抱きしめる。
「馬鹿言うな。俺がお前を見捨てるわけなかろう・・・?」
一甲の腕が。身体が。心が。
一鍬に熱を与えていく。
兄の心が気持ちいい。


だけど。

身体は少しずつ温まっていくのに。




なぜ、俺の心はまだこんなにも寒いのだろう。





                             END





一鍬はそんなに強くないと思います。
そして一鍬の心の奥底を一番わかってやれるのは、やっぱ唯一無二の兄弟である一甲だと思うのです。
でも一鍬の切なさを癒すにはまだ時間がかかるって事で。
こういうのってそんなに早く癒されるものでもないですし。
一甲には頑張って一鍬の心の寒い部分を温めてもらいたい。
ゆっくり、少しずつでいいから。
頑張れ一鍬!そしてもっと頑張れ一甲!!(笑)

・・・・・・・・・今気づいたけど、うちの一鍬はえらく兄者兄者言ってる気が・・・・・・。
一甲は一甲で一鍬にえっらく甘いし。
・・・こんなのでいいのかうちの霞兄弟(笑)
                      
                      完成日 2002、11,11  斗崎雷駿拝

     レッツブラウザバック。